暗闇だ・・・
何も見えない
僕の世界。
ここはどこ?
匂いがする。
青い草みたいな
かぎなれた匂いがする。
誰かいるんだ。
僕の後ろに。
この場から離れなきゃ・・・
ここにいると
怖い目にあっちゃうよ。
僕は足を前にだそうとするけど
動けないよ。
動けないよ。
目の前が真っ暗なのに
僕の意識は鮮明だ。
たぶんこれは夢なんだろうと思うんだけど
それならさめてほしいんだけど。
僕の髪をつかんで
僕の肩をつかんで
僕を絡めとる太い腕。
僕は精一杯抵抗するんだけど
首をしめられて
息が出来なくなる。
指の先まで血が回らなくて
頭の血管が切れそうに熱い。
声すら出せずに
僕の腕は宙をつかむ。
きがつけばいつのまにか
僕は仰向けに倒されて
両足の上に
誰かがまたがっている。
重いよ
苦しいよ
嫌だ・・・。
「嫌じゃないじゃん。
・・・こんなになっている。」
違う。
嫌だ。
「ちゃんと、歯みがいてる?」
そんなこといわないでよ。
僕は・・・。
嫌だ!!!
僕をしっかりととらえる
たくましい腕の感触。
堅くて日に焼けたその両腕が
僕の体を強く強く締め上げる。
あまりの痛さに僕は悲鳴を上げる。
僕らの体の間に
どちらかの汗が流れて
胸の所から
お臍のほうまで
ぬるぬると音を立てている。
僕は精一杯両手を突っ張って
彼の体から
逃れようとするんだ。
このままじゃ
殺されちゃうよ。
彼はにっこり笑いかけると
僕の背中に
つめを思い切り立てる。
そしてどんどん
僕の顔に唇を近づけてくる。
彼の高い通った鼻が
僕にどんどん近づいてくるんだ。
それはしちゃいけないことで
だから
僕は必至で顔をそむけるんだけど
彼の手のひらが
僕の頬をしっかりはさむんだ。
かたくて
大きな
彼の手のひらが。
僕の体は感電したみたいな状態で
指先までびりびりきて
そうして
僕は
駄目になる。
そして
彼の唇が
僕の唇に重なって
僕の閉じた歯を
彼の舌が撫で回しはじめると
僕は・・・
彼の舌が
僕をなめまわす音がして
そしてその音はすごくいやらしくて
こんな音は聞いたらいけないんだけど
でも間違いなく
そのいやらしい音は僕の中からでている音なんだ。
そして
僕の背中が
下のほうからだんだん熱くなって
僕がだんだん頭を持ち上げて
自分で自分を濡らし始める。
彼に気づかれないようにと腰を引くんだけど
そんなこと彼にはもう十分気づかれているんだ。
彼はあえてそれには触れず
僕の口びるを
強く激しく吸い続ける。
嫌だ嫌だとつぶやきながら
僕は
自分から
自分の体を彼に押し付ける。
さわってもらえないのがもどかしくて
僕が彼にこすりつける。
そして
僕は嫌だと言いながら
唇を少しずつ開くんだ。
そして彼の舌が入ってくるのを
待ってるんだ。
本当は。
彼の唾液は
とても甘くて
暖かい。
彼が
僕の中に
舌を差し入れたとき
僕は
自分から
圭吾ちゃんに吸い付いている。
ああ
やっぱり
圭吾ちゃんだったんだ。
気持ち悪くなんかない。
圭吾ちゃんなら。
嫌じゃない、
本当は。
気持ちいいんだ。
僕は自分から彼の中に舌を差し入れて
彼自身を夢中で吸う。
僕の意識は真っ白になり
僕は彼の舌に
思い切り絡み付いている。
彼がそれにこたえると
僕は声をあげそうになる。
僕は体を震わせて
彼の背中を自分から抱く。
気持ちがいいんだ。
本当は
気持ちがいいんだ。
圭吾ちゃんが僕に投げつける
意地悪な言葉も
わざと僕の体を
乱暴に開くのも
本当はとても気持ちがいいんだ。
背中に彼の体を感じて
抱きしめられて
押し付けられて
それでも
休みなく口付けされる。
彼の手のひらの中で
僕はどんどん緊張して
僕は放出し開放される瞬間を待つ。
僕の体は
彼の動きを
ただ貪欲にまっている。
暗闇に浮かぶ
僕らのシルエット。
動物みたいだ。
いや
動物はこんなことしない。
僕らは・・・。
耳元で彼の吐く
熱い息。
僕は声だけは出さないように
自分でシーツに顔を押し付けようとする。
「嫌じゃないんだろ
本当は。」
聞かないで。
「俺のこと
嫌いじゃないんだろ?」
聞かないでよ。
「・・・俺、まあちゃんが好きなんだ。」
「なんで・・・
それなら何で
僕を殴ったの?」
「ごめん」
「何で僕に無理やりこんなことをするの?」
「・・・もう無理やりしたりしない。
嫌ならしないよ。
殴らないよ。
だから・・・。」
「本当に
僕のことが好きなの?」
「好きだ。
だから・・・。」
「僕のことが好きなの?」
「好きだ。」
圭吾ちゃんの身体が
僕を揺さぶり
僕はたまらず
叫び声をあげる。
僕は
圭吾ちゃんを全身で感じて
体中に鳥肌を立てて。
自分でも信じられないような大声で
僕は叫ぶ
彼の名前を。
いつか彼が僕に見せた
アダルトビデオの女優のように
僕は言葉にならない叫びをあげて
彼の唇を求めるんだ。
いいよ、
いいよ、
僕を
抱いて
僕が好きなら
僕を抱いていいよ!
僕をもっと
気持ちよくしてよ!
好きなんだ
圭吾ちゃんが好きなんだ。
だから
やめないで
僕を
愛してよ!
もっと!
僕は自分の叫びで眼がさめる。
リアルに残る
彼の唇の感触と
僕が
その気持ちよさにおぼれた証拠が
ねばねばとしたぬめりとなって
僕を濡らしている。
僕は
布団から出ることも出来なくて
頭を抱える。
圭吾ちゃんに会わなくなってから
繰り返し見るようになった夢。
夢の中での僕は
彼の唇を自分で割って
舌と舌とを激しく絡める。
そしてそれは
ものすごく気持ちいいんだ。
「でも
何で
圭吾ちゃんなんだ・・・。」
僕はなぎささんの姿を思い浮かべ
なぎささんで
自分を慰めようとする。
汚れたままの手で・・・。
僕は
僕は
最低だ。
それでも僕はのろのろとおきだして
着替え始める。
頭が重くて
吐き気がした。
靴をはき
ドアに鍵ををかける。
ふととなりのドアをみると
美紀ちゃんはもう出た後のようで
テニス部の朝練のようだった。
圭吾ちゃんの気配もなかった。
僕は階段を下りていく。
時々襲う怪しい疼きが
僕の歩みを止める。
僕はもう中学校の生活にもなれて
大勢の中に溶け込んで暮らしていた。
正直勉強はつまらなくて
同級生達の話題にもほとんど加われない。
芸能人とかゲームについて
すごく知ってる人もいてそういう人がクラスの人気者だったりするけど
僕には関係のないことだった。
僕は自分が「普通」じゃないと知っていたから
学校に毎日行けるだけで
十分だったのかもしれない。
小学校ではやたらみんな仲良く、なんていうもんだから
僕みたいな奴は息苦しくてたまらなかった。
嫌いな奴は嫌いで
殺したい奴もいたんだから
努力すれば友達になれるといわれると
それだけでその場を飛び出したくなった。
それにしても。
今朝の夢。
夢で見たことがそのまま現実にあったことじゃない。
どんなにリアルでも
夢は夢だ。
どこかで見た画像と一緒になっちゃってるんだ。
僕のほうからあんなことしない。
声を出したことなんてないんだから。
でも
あんな夢を見るってことは
僕に
願望があるってこと?
校門が近づいてくると
僕を待つなぎささんの姿が見えた。
今朝の自分のしたことを思うと
気まずくて顔をあげられない。
だからといって引き返すことも出来ないで僕は
一歩一歩前に歩いていく。
「雅人君。」
「・・おはよう。」
いつもと変わらないなぎささんだ。
「今日はなんだか元気がないね?」
「そんなことないよ。」
「そう・・・
あ、昨日ね
買い物してたら美紀さんにあったわ。」
「美紀ちゃんに?
どこで?
僕は最近ずっとあってないや。」
「隣同士なのに?」
「うん。
なんだかいろいろつきあいがあるみたいで。」
「そうなんだ。
それで一緒に美紀ちゃんのお兄さんがいたの。」
僕は思わずつばを飲み込んだ。
そしてゆっくりとなぎささんの顔を見た。
「誰にあったって?・・・」
「美紀ちゃんのお兄さんよ。
雅人君のことよくしってるみたいだったわ。」
「・・・本当に美紀ちゃんのお兄さんと会ったの?」
「そう。
君、まあちゃんのガールフレンド?ッて聞くから
はいっていっちゃったけど・・・。」
「ほかに・・・
他に何か言ってた・・?」
なぎささんは明らかに物足りなさそうな顔をしていた。
ガールフレンドという言葉に聞き慣れない思いがしたのは事実だけど
僕はそれよりも確かめたいことがあったのだ。
「今日学校終わってから皆で一緒にカラオケにいこうかって。」
「圭吾ちゃんがそう言ったの?」
「そうよ」
「美紀ちゃんじゃなくて?」
「お兄さんのほうが私達を誘ったの。
雅人君といっしょに来たらどうかって。」
「もう行くって返事したの?」
「うん」
「かってにそんな!」
思わず大きな声がでて
僕自身が驚いた。
なぎささんは足を止めて
大きな瞳で僕の顔を見た。
「なにもそんなに怒らなくても・・・。」
「怒ってなんかいないよ、
ただ、
そういう返事は僕の都合も聞いてから・・・」
「なにか用事があったの?
それならごめんなさい。」
「そうじゃないけど」
「じゃあいきましょうよ。
よかったあ。
美紀ちゃんのお兄さんってかっこよくって優しそうな人ね。
素敵だわ」
なぎささんはにっこり笑うと先に教室に入っていった。
僕はしばらく廊下に立っていた。
何度もこぶしを握ったり開いたりしてみた。
僕の背後になんだか圭吾ちゃんが立ってるような気がする・・・。
今朝の夢がよみがえる。
生暖かく
ぬるぬるとした感触が
僕の脳裏によみがえる。
僕の耳をかむ
彼の歯の感触と
体を突き抜けるような痛みが
僕の気持ちを
ぐしゃぐしゃにつかむ。
僕の体を
絡めとる彼の腕。
僕は
こんなことは
望んでないんだ。
なのにどうして
こんなにはっきり思い出せるんだ?
畜生・・・!
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